美しい歌 ~好きな歌の訳、解釈、若しくは雰囲気の紹介

好きな歌の訳、解釈、若しくは雰囲気の紹介

Ruby's Arms

Ruby's Arms
(Tom Waits)


◆ルビーの腕◆



君と一緒にいたときに着ていた服は
全部おいていこう
このエンジニアブーツだけあればいい
それと革のジャケット
ルビーの腕にさよならするんだ
俺の心は砕けたけれど
日よけをすり抜けそっと出て行こう
君はすぐに目を覚ましてしまうだろうから


朝の光が君の顔に降り注いでいる
今や何もかもが憂鬱だ
君は枕を抱きしめている
もう俺ができることは何もないな
俺はルビーの腕にさよならするから
きっと君は次の戦士を見つけるんだろう
たぶんクリスマスまでには必ずな
きっと他に君を抱いてくれる人はいるさ


俺が手に取るのは
物干しにかかっているスカーフだけ
君のタンスは早足で過ぎて
それと君の壊れたウィンドチャイムからも
さよなら
さよならするよ
さよなら、ルビーの腕


俺の道はうす暗い廊下を進んでいるみたいだ
そこを抜ければ朝へと続いている
貨物置き場のホームレスは
いつも焚き火を絶やさない
このくそいまいましい雨
誰か俺を列車に乗せてくれないか
俺は二度と君の唇にキスすることはない
君の心を傷つけることもない
さよならするから
さよならするよ
さよなら、ルビーの腕





※※※
恋人が目覚める前に、そっと出て行こうとしている男の歌です。
去って行こうとしつつも、彼女の顔を見つめたりと、思いが揺れています。

壊れたウィンドチャイムや、焚き火、冷たい雨のイメージから、私は季節は秋だと思っています。



別れはもう決まったことだろうに、ずいぶんと未練残る様子の男。
それに、なぜ彼は彼女が寝ている間に出て行くのでしょう。
彼女は何も知らず眠っているのはどうして?


そう思ってこの歌詞のことを調べていて見つけた解釈がすとんと胸に落ちたので、ご紹介します。


この男は、もう死んでいるのです。たぶん兵隊で、戦場で。
そして、この世から去って行く前に、恋人に別れを告げにきたのです。
彼女が枕を抱いて寝ているのは、一緒に寝ている恋人がそこにいないから。
彼は彼女に対し、もう何もしてあげることもできない。キスも、けんかもできない。
ブラインドの間から去って行こうとしているのは、差し込む光に照らされる彼女の顔を最後まで見つめていたいからかもしれません。
薄暗い長い通路を抜けて光へ進んでいくのも、昇天のイメージに重なります。


彼女が目を覚ますと、そこに風もないのに(騒々しく鳴るウィンドチャイムの音がしなかったので)床に落ちたスカーフを見つけるのでしょう。


「何もかもが憂鬱だ(everything is turning blue now)」は、文字どおりには「今はすべてがブルーになっている」です。
彼女の名前「ルビー」の赤色との対比であろうとも思いますし、私の訳の「沈鬱な気分」の意味もあるでしょうし、もしかしたら霊魂の目で見たの青ざめた世界を表しているのかもしれません。


その解釈で改めて詞を読み返すと、このほの暗い雰囲気も切ない感情も、単に夜明け前の別れだけが理由ではないと思え、一層悲しい歌に聞こえてきます。



この解釈は、こちらを参考にしました。
Ruby's Arms Lyric Meaning - Tom Waits Meanings
http://www.songmeanings.net/songs/view/50494/

 
そういえば、この歌のオリジナルはトム・ウェイツTom Waits)ですが、私の大好きなナンシー・グリフィス(Nanci Griffith)もこの歌をカバーしています。
ただ、歌い手が女性なので、歌詞を少し変え、主人公を「彼(He)」にしています。
この曲の美しさは同じなのですが、三人称になる分、切なさにワンクッション挟まるような気がします。