美しい歌 ~好きな歌の訳、解釈、若しくは雰囲気の紹介

好きな歌の訳、解釈、若しくは雰囲気の紹介

It's a Hard Life Wherever You Go

It's a Hard Life Wherever You Go
(Nanci Griffith)



◆どこへ行こうとももきつい人生◆



私は後部座席に座っている出しゃばりなアメリカ人
彼らはフォールズ通りの左車線を走っている
ハンドルを握っている男の名前はシーマス
彼が知っている街角で、1人の子供を追い越した
シーマスが言う「あの子にどんなチャンスがあると思う?」
私は後から答える「わからないわ」
彼が言う「出口にはみんな鉄条網が張ってある
ベルファストにはあの子の行く場所なんてないんだよ」


きつい人生
きつい人生
なんてきつい人生
どこへ行ってもきつい人生
もし私たちが子供らを憎しみで毒してしまったら
彼らにあるのはきつい人生だけ
そして、ベルファストにはそんな子供らの行くところなんてないのだ



シカゴのカフェテリアの列
私の前のでぶの男
自分の子供達に黒人をクズだと呼んでいる
その男こそここにいる中で唯一のクズだ
きっとこの男は夜中子供達が眠りについた頃
白いフードをかぶるのだ
しかし、子供達はそっと窓の外を覗き、父親の姿を見る
そして、白いフードこそ自分たちに必要なものなのだと思う


きつい人生
きつい人生
なんてきつい人生
どこへ行ってもきつい人生
もし私たちが子供らを憎しみで毒してしまったら
彼らにあるのはきつい人生だけ
そして、シカゴにはそんな子供らの行くところなんてないのだ



私が子供だった60年代
夢がテレビを通してやってきた
ディズニーにクロンカイトにマーティン・ルーサー
そして私は信じていた すっかり信じてた
今、私はアメリカからやってきて後部座席で口だけ出している
私は方向を決めるハンドルを握ってはいない
私が罪、私が戦争、…私が諸悪の根源
神さま、私はこの道の左側を走ることはできません


きつい人生
きつい人生
なんてきつい人生
どこへ行ってもきつい人生
もし私たちが子供らを憎しみで毒してしまったら
彼らにあるのはきつい人生だけ
そして、この世界にはそんな子供らの行くところなんてないのだ


どこへ行ってもきつい人生…





※※※

1番:1980年代頃まで続いた北アイルランドの紛争
2番:人種差別主義


そんな憎しみの中に育った子供は、きっと憎しみに染まった人生になる。



3番で歌われているのは、テレビから流れる「いいもの、美しいもの」。
ディズニーも、クロンカイトも、マーティン・ルーサー・キング牧師も、アメリカの「良いもの」です。
それらだけを見て育った子供は。
自分たちの正当性を固く信じ、困難な状況にある人と共に歩まないのに口だけは出す人になるのかもしれません。
そんな生き方も、決して平和的とは言えないでしょう。


だから、「どこへ行っても、ひどい人生」「世界のどこにも行くところはない」



“今の時代は最高とは言えないけれど…”などと、別の歌のことを考えてしまいますけど、(別の歌→Child of Mine)子供たちの未来は大人にかかっているのだから、できる限りよりよいものを目指していかなくてはと思います。
歌の中でも、繰り返し部分のバックコーラスが、祈りの歌のようにも聞こえるのが印象的です。




*解説


ベルファスト北アイルランドの首都
フォールズ通り:ベルファストの中心街。紛争のさなかにはテロなどが頻発した地域。


この歌が収録されたアルバム「ストームズ(Storms)」が発表されたのは1988年。
この頃の北アイルランドは、長引く紛争の影響から社会も経済も疲弊しきっていました。


白い頭巾:白人至上主義、黒人差別を唱えている秘密結社、クー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan、KKK)のシンボル。


クロンカイト(ウォルター・クロンカイト(Walter Cronkite)):アメリカのジャーナリスト。リベラルな報道姿勢から、「アメリカの良心」「アメリカで最も信頼できる男と呼ばれた。
マーティン・ルーサー・キングMartin Luther King):人種差別反対運動の中心的人物。「私には夢がある("I have a dream")」という演説の言葉が有名。


「後部座席で口だけ出す人=backseat driver」:後部座席から運転手にあれこれ指示だけする人、という意味で、「お節介、出しゃばりな人」という比喩。