美しい歌 ~好きな歌の訳、解釈、若しくは雰囲気の紹介

好きな歌の訳、解釈、若しくは雰囲気の紹介

On Raglan Road

On Raglan Road
(Patrick Kavanagh)


◆ラグラン・ロードにて◆



秋の日のラグラン通り
あの人に初めて出会いそして悟った
彼女の黒髪は編まれた罠
いつか悔いることになると
その危険を知りつつも
私は魅惑の道を進んでいった
そして言う「悲しみよ、落ち葉となれ
夜明けとともに」


11月のグラフトン街
私たちはその岩棚を軽やかに歩んだ
深い谷間に見えるのは
燃える思いの誓いの重み
ハートの女王はタルトを焼き続け
私は干し草を作ろうともせず
ああ、愛しすぎるなどということで
幸せは去っていくのだろうか


彼女には私の心からの贈り物
秘密の印をあげた
それは芸術家たちの知っているもの
彼らは音と石の真の神々を知っている
それに言葉や惜しみのない色調の神々を
彼女に捧げたのは詩のいくつか
そこに詠った彼女の名前とその黒髪
5月の草原に広がる雲のような


幽霊たちが行き交う静かな通り
今あの人が私に背を向け
足早に去ってゆく
言い訳したい
すべきでなかったこの恋を
それは土くれの人形
天使がその土くれに愛を語れば
夜明けとともにその翼を失うのだ




※※※
幸せになれないと知りつつ惹かれていった恋を歌った歌です。
元は、アイルランドの詩人、パトリック・カバナー(Patrick Kavanagh)が1946年に発表した「Dark Haired Miriam Ran Away(黒髪のミリアム去りゆきぬ)」という題名の詩で、それにアイルランドのバンド、ダブリナーズ(The Dubliners)のルーク・ケリー(Luke Kelly)が、古いアイルランドのメロディをつけたのがこの歌だそうです。


第1節のラグラン・ロード(Raglan Road)も第2節のグラフトン・ストリート(Gragton Street)も、ダブリンにある通りの名前です。
グラフトン・ストリートについては、ナンシー・グリフィスが「On Grafton Street(グラフトン・ストリートにて)」という歌を作っています。(こちらで紹介しています)この歌も遠い昔の恋人を思い起こす内容でした。もしかしたら、この歌を意識していたということもあるのかもしれない…と思ったりしました。


第3節の「ハートの女王はタルトを作っている(The Queen of Hearts still making tarts)」は、マザー・グースからの引用です。

The Queen of Hearts
She made some tarts,
All on a summer's day;


ハートの女王、タルトを作った
夏の日1日かけて


そしてこの夏を連想させる部分に続けて「干し草を作らない私(I not making hay)」とあるのは、英語のことわざで「Make hay while the sun shines. (日が照っているうちに干し草を作れ)」をふまえたものでしょう。
このことわざは「鉄は熱いうちに打て」「好機を逃すな」という意味ですから、つまり「未来への備えをすべき時にしなかった」「未来のことなど考えていなかった」という比喩です。



上で紹介した動画は、チーフタンズ(The Chieftains)とジョーン・オズボーン(Joan Osboene)による演奏ですが、オリジナルのルーク・ケリーのものも紹介します。




ついでにもう1つ、チーフタンズのライブでロジャー・ダルトリー(Roger Daltry)がゲスト出演したときのものです。私の好きなバージョンでもあります。